選手財:「サッカー選手の正しい売り方」を読む

最近出た同じ著者の「サッカー日本代表の育て方 子供の人生を変える新・育成論」に比べると、誤解を受けやすいタイトルで、食わず嫌いを増やしていると思われる、小澤一郎著「サッカー選手の正しい売り方 移籍ビジネスで儲ける欧州のクラブ、儲けられない日本のクラブ」を読んだ。

2012年2月出版の本なので、2011年以前の取材に基づいた本である。


エグいサブ・タイトルのおかげで、選手をモノ扱いして、とにかく儲けましょうのビジネス書かと受け留められる恐れがあるが、そうではなく、世界と日本のサッカークラブの移籍の考え方と手法の違いを紹介しつつ、日本のクラブ経営やJリーグのあり方を問う本である。

海外サッカーの移籍事情に詳しい方や、雑誌などを丹念に読む方には、既知の事も多いのだろうが、自分的には、クラブの有り様、ひいてはサポートの方向性を考える上で参考になる本だった。

特に著者が強調しているのは、ジュニアあるいはユースの頃から手間隙かけて育てて、代表クラスとなった若手有望選手が、「ゼロ円移籍」で海外に流出してしまう事の、「損失」。

今日、優秀な選手であればあるほど、より上のステージを目指し、海外を目指すのは、もう止めようも無い流れ。

だとしても、とにかく選手自身が、出たいがために、移籍金をクラブに残さず、あるいは微々たる額で出て行ってしまう事が、「選手財」(これは私の造語)を失うばかりでなく、本来、その移籍で得られるはずの、「対価」をみすみす逃しているということ。

著者は、選手が希望の海外チームに移籍でき、元クラブは、その「移籍金」や「トレーニング費用」によって、新たな育成予算や強化費を捻出するという、育成型チームのWin-Winのサイクルを作るために、優秀な代理人を活用し、選手の価値を上げ、(リーグとして)海外のスカウトを招いたりして、売り込みさえすべきだと主張。

代表クラスの選手を揃え、相当の予算を持ち、毎年優勝を狙うというビッククラブで「ない」なら、生え抜き選手を自チームに縛るだけでなく、「移籍」や「輸出」をして、サイクルを回すのも、クラブ生き残りの策の一法だという。

そのために、選手の能力を上げる、少なくとも下げない(適宜試合に出す)。これは移籍だけでなく、戦力の底上げには必要なことだろう。


ところで、欧州では、若い選手をプロ選手に育てた組織に対して、育成の年あたり、9万ユーロという相場で「TC」とか「トレーング費用」が払われるそうである。

日本でも似たような規定が作られ、たとえばJリーグ内では23歳以下800万円/年だが、外部の学校などに対しては、上限30万円x年と大部開きがある。さらに法人組織でない町クラブに対してはゼロ。

もし、優秀な選手がいる学校や町のクラブチームに、9万ユーロまでいかなくても、それなりの額で、海外から誘いがあれば、指導者はJリーグよりも、海外を勧めたりするようになるのではないか、というのである。

なんでもかんでも欧米流がいいとは限らないが、すでに移籍、「選手財」の流動化は国際化している。
「割安」で評価されている面もあり、まだ、妥当な高い評価を得ているわけではないが、現在のチームの順位とかカテゴリーに関係なく、日本人選手が注目される時期に突入している。対価に関しては、国際基準で考えるべきところはある。


さて、「いや、ウチのチームには、移籍ビジネスなんて関係ない」話なんだろうか。仮に海外からも注目され、本人も上昇志向の逸材が、アカデミーや若手に出てきた時に、ただチームの宝だといって、チームに縛りつけたり、逆らうなと干すことだけが、ほんとうに「選手財」を活かすことになるのだろうか。

百戦錬磨の海外クラブと渡り合うのは簡単ではないだろうが、海外移籍に関しては、一度あえてレンタルで出しておいて、ビッククラブに完全移籍する時に、初めて移籍金を貰う、というようなテクニックも紹介されていた。

著者が言うように、海外チームがエグいとか、代理人がうっとっしい、というばかりでなく、こちらも、「選手財」の価値を上げて、選手とともにWin-Winになれるように、準備はしておく必要はあるだろう。

考えさせられる内容だった。