もうひとつの育成

 サンフレッチェ広島の佐藤寿人選手が、2005年度のベストナインに選ばれた。日本人得点王として、 あの大黒を抑えて、FWとしてMVPのアラウージョと共に受賞。(追記 06年1月から2月の宮崎合宿、米国遠征の日本代表にフル代表として初めて選出され、2月22日アジアカップ予選インド戦で初ゴール)

寿人選手は、ベガルタ仙台に移籍した2003年J1で9得点、2004年J2で20得点とベガルタのチーム内での得点王。若くて小柄な がらチームの大黒柱になった。21、22歳と若い時代を仙台で過ごしている。もちろんジェフや セレッソの時代での基礎固めがあってのことだが、この2年まんべんなく試合に出て、ときに守備の オールピッチ・ディフェンスに借り出され、ときにポストプレーのようなことまで担いながら、着実に力をつけ自信を深めていった。降格した2年目では、レンタル元のジェフの復帰要請にもかかわらず、前代未聞、自らベガルタへの完全移籍を申し出て退路を断った。この時点で、彼は一年勝負に出たのだと思う。仮にチームを去ることになっても年齢から移籍金を残すことができる。彼自身は20得点あげたが、チームは降格。そして2005年は広島へ移籍。判を押す前のことがとかく言われるが、セリエAからも興味を示されるような、今年の活躍を見れば、素直に良かったねといいたい。

 さて、「育成」の重要性は誰しも思うことだが、人によって言っている中味が違う場合があるような気がする。ジュニアやユース時代も同じチームでなければいけない、卒業が地元でないとだめだ、いや生まれも地元でないと、と、そこまで言うひともないかもしれないが、そういうパターンだけではないだろう。出自、年齢に関係なく、広くチャンスを求められる流動性こそサッカーの特徴なのでは?
 寿人選手の場合も出場機会をものして、降格の厳しいプレッシャーの中に残り、きつい要求の監督の元で過ごしたことは、間違いなく、今年の活躍につながっているはず。そしてJ1の広島に移籍したが、チ ームに果実も残している。これもひとつの「育成」ではないか。

 若い時から、慣れ親しんでいる選手が、長くいつまでもチームにいて欲しいと思うのは人情だ。もし出場し活躍し 続けられるなら、それが一番いいのかもしれない。けれども選手にとって一番大事なことは、より上 のレベルを目指せること、出場機会が得られること。それがなければ、どんなに素晴らしいチームも 選手の胸に響かない。移籍してきた若い選手が、ベガルタに来て出場機会を得、チームに貢献、さら に飛躍する。ユースからも、実力でトップに上がる。そんな選手が次々現れるようなチームであって 欲しいと思う。
 そして、今年ベガルタを去った選手たちにも、新しいチャンスが来るように願っている。これは終わりじゃない。始まり。自分を信じてチャレンジしていって貰いたい。