佐々木則夫著「なでしこ力」を読む

今日は、アルガルベ杯で、なでしこジャパンが、ランク1位のアメリカと、2011女子W杯以来となる対戦をする日ですね。

リベンジに燃えるアメリカ相手に、世界チャンプとして、実力を証明できるか?簡単ではないミッションですが、きっとやってくれるでしょう。

さて、2011年女子W杯で世界一になっても、日本はアメリカ、ドイツについでランクは3位。なかなかシビアなランキングだと思いますが、では、W杯は偶然や運の良さの結果なのか?

確かに多少の運もあったが、それを結果につなげ、呼び込む必然があった。世界一に運だけでなれる程、サッカーは甘くないです。

佐々木監督の本「なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!」に、その答えが書いてあります。帝京の大先輩ということでもあり、関口選手もだいぶ前に読んだとブログに書いていた本です。
以下、ネタばれありマス。

この本は、凄い本です。

何が凄いって、日本の代表監督が、世界大会でタイトルはおろか、メダルさえ無い、なでしこジャパンで、ワールドカップの半年前に、「世界一になろう」って宣言してしまっているのです。後付けではありません。

結果を出して当たり前、「格下」相手に負けようものなら、非難轟々。それでいて、けっして、応援が悪いから負けたとか、誰のせい、彼のせいと言い訳を許されない代表監督。

その上、世評から少々高い目標を言うと、これまた非難される。しかし、非難を恐れて、非難するなと哀願したり恫喝していては、代表監督は務まらない。結果をピッチ上で示さないといけない。

それなのに、佐々木監督は、この本の前文で、真っ先に、「世界一も夢じゃないと確信している」と、明言しています。 関係者は、出版当時「大丈夫か」と心配した事でしょう。


実は、それまでの育成に加え、佐々木監督の先を見た積極的な選手起用と、対戦相手の分析力が、徐々に形となって現れ、澤選手が代表を15年やって初めて手にしたというタイトル、アジアチャンピオンや、メダルには届かなかったが、北京五輪4位と確実にランクを上げていました。

2011年の女子チーム世界最優秀監督となった佐々木さんですが、既に2010年以前、その候補に上がっていました。つまり、世界のサッカー界では、2011年のW杯の前から、その手腕を認めていたわけですね。知りませんでした。


さて、この本は、サッカーの本として、2つの大きな読みどころがあります。

ひとつは、「点が欲しい時に、取れる場所にいて、点を取る」ことができるFWでもあり、同時に、危険な地域を察知して、すばやく守備に向かうこともできる、澤選手を、それまでの指定席のトップ下から、ボランチに下げたことです。

もう一つは、体格差で劣るチームの戦略として、ライン際に相手を押し込み、守備をするという常識を打ち破り、逆にあえて、中央に相手追い込んで、ボールを奪うというスタイルを打ち立てたことです。

決断の理由は、本書でご覧下さい。


さらに、イメージ・トレーニング。W杯の半年前、この本が、選手に読まれることを前提に、世界一を狙える、なれると、暗示をかけたのでしょう。

しかも、根拠のない「努力目標」ではなく、きちんと段階を追ったチーム編成と、監督就任後の高い勝率で結果も出し、選手の信頼を得ていたので、説得力がある、現実的な目標としてあったわけです。

さらに、責任を負わされる監督が、カメラ目線で「世界一になろう」とぶち上げて、「いつでも俺が恥をかいてやるよ」と前に出てくれたので、選手も誰はばかることなく、同じ目標を掲げられたのです。


本書で「ひたむき、とは、苦しさを耐え忍ぶことでなく、自分には出来ると信じることである」と佐々木監督は言っています。

今は無い。けれでも、いつかは身につけることができる。自分なら、できるようになるはずだ。そうなるために努力する。それが「ひたむき」だと。これを「自信」と置き換えてもいいでしょう。

本来は、今ある自分の力を信じるのが「自信」でしょうが、時としてそれは、「過信」に陥りやすいもの。しかし、今はなくても、未来を信じ、それに向けて努力するなら、漠然とした希望が「自信」になって生きる力となる。

さて、ロンドンでは、激しいマークに合うはずの、なでしこ達は、どんな、ひたむきさの花を見せてくれるでしょうか。まずは今夜、アメリカを返り討ちにしたいところですが、果たして?

(追記)アメリカの厳しい攻めに苦しみながら、体調不良の澤御大もいない中、宮間先生を中心に耐えながらチャンスを伺い、後半38分に宮間のコーナーから高瀬のヘッドで1-0勝利。
様々な選手、様々なポジションを試しながら結果も出しました。依然、アメリカが実力No.1かもしれませんが、なでしこも十分対抗できる力を身につけた、チャンピオンにふさわしいチームになってきました。