渡邉晋著『ポジショナルフットボール 実践論 』を読む

ベガルタ仙台前監督、渡邉晋さんの本、『ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』を読みました。

ベガルタ仙台での、監督在任期間の後半、2017年から2019年までの、渡邉氏が挑んだ理想のサッカーへの挑戦と、現実の狭間での苦悩を、チームの成果と課題で辿りながら、赤裸々に書いてあって、実に面白い本となっています。



私のような、ワーワーとサッカーを観てるだけの人もw、戦術やベガルタのサッカーの変遷に興味がある通の方にも、読みどころがあると思います。

ただ、本のタイトルである、「ポジショナルフットボール実践論」とするのは、どうでしょうか。

勿論、コーチなどに参考となるような、「ポジショナルフットボール的」トレーニング方法、「立ち位置」の根拠となる、概念の説明も丁寧にされていますが、同時に、対処法やその限界も、実際の試合の状況を通して、包み隠さず書かれています。

その辺の評価・感想は、詳しい方にお任せするとして。


そういう技術論以上に、ナベ氏が、この本で最も伝えたかったのは、地方の小クラブにおける「理想」への道の難しさ、監督業の面白さと大変さ、そして、サッカーを観てる人に、勝敗以外の「楽しむ見方」への提案だと思います。

巻末に、夏まゆみ(AKBなどのダンスプロデューサー)さんとの対談が加えられているも、本番に向けてのプロセスに、ひとりひとりの動きに、どれだけ神経を配り、決断をしていくか、エンタメ業界との比較から、監督業の面白さを、浮き立たせるためでしょう。

理想を追求する男、魅力的な監督の本として、そして、サッカーの楽しみ方の提案など、非常に興味深く読ませて頂きました。

ただ、毎年、地方の小クラブ、結果が厳しく求められる状況下では、理想の追求だけでは、立ちいかない現実もある。

チームや、当方のような、ワーワー系の声にも耳を傾けながら、理想と現実の狭間で苦悩するナベ氏の想いが、行間に満ちています。

それだけでなく、理想を実現するべく、将来への希望も、述べられています。

育成年代のコーチの指導の参考になり、監督志望の方には貴重な現場レポでもあり、ベガサポ、ファンなら、当時のチーム状況を思い起こしながら、楽しめる本だと思います。


目次:
はじめに

1章 ポジショナルプレー前夜

戦術がチームに一体感を持たせる
きっかけは逆転負けを喫した2015年の鹿島戦
ポジショナルプレーの種となるもの
[4-3-3]を試行錯誤した結果[3-4-3]へ
偶然性も含んだ欧州視察で3バック思考を整理

2章 渡邉式ポジショナルプレー~指導法~

「相手2人以上を困らせる」ポジショナルプレーとは?
《レーン》を真っ直ぐ走り2人の相手を困らせる
決定的だったアイデア「だったら線を引いてしまおう」
今から振り返ればあれは......
強烈な「個」と戦術をどう折り合わせるか

3章 渡邉式ポジショナルプレー~言葉の魔法~

自分たちだけの「共通語」を作る
パス1本で置き去りにするCB→WBの《切る》
WBの《留める》で味方に利益をもたらす
ボールを奪った瞬間の逆サイドへの《解放》
「5ゾーン」?選手に響かなかった言葉
継続は力なり。少しずつ変貌していった仙台
利き足へのこだわり
GKを組み込むための試行錯誤
ボランチは心臓。ともすれば1人で5人を困らせられることも
攻撃で圧倒する意志を持ち突き抜けた2017年
戦術の浸透とクラブ戦略

4章 ポジショナルプレー交戦~対戦の駆け引き~

望まない[5-4-1]やミラーゲーム
あくまでもスタート地点を見失わないように
ミラーゲーム対策の[3-1-4-2]の導入
教育者か勝負師か
流れをとるか適正をとるか
感じ始めた3バックの限界

5章 ポジショナルプレー交戦~理想と現実の狭間で~

カウンターへ傾倒していく過程
トレーニングは嘘をつかない
得られなかった攻撃の手応えと堅守速攻への回帰
理想と現実の狭間で

6章 ポジショナルプレー番外編~チームマネジメント論~

スタメンとベンチメンバーをどう選ぶか?
「想定内を増やす」アプローチ
監督とコーチの違いとは何か
アナリストやテクノロジーとの協調
2020年から学ぶマネジメント
『3+4対4』は最初に提示するトレーニング
『ポジショナル』が当たり前となる育成へ

対談 渡邉晋(サッカー指導者)×夏まゆみ(ダンスプロデューサー)
「スペースの機能美」

おわりに

論理的プレーを生み出すトレーニングメニュー集
3対2
4対3
ウオームアップ
フォーメーション~シュート
コンビネーション&クロスシュート
1+5対5+GK
6対5+1ターゲット
5対5+2GK
6対2(ウオーミングアップ)
6対3
3対3+2レシーバー


◎渡邉晋著『ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』
カンゼン社刊 2020/10/14 電子書籍もあります。