長束恭行著『東欧サッカークロニクル』を読む

日本代表のあれこれで、個人的に熱量下がり気味のワールドカップ2018ロシア大会ですが、やはり眠気を堪えながら、何試合か見ていると、本気出した時の各チームのスピード、技術、そしてハートに、目が離せなくなります。

そんなタイミングで、長束恭行著『東欧サッカークロニクル』が、5月に発売されてましたので、読んでみました。



副題の「モザイク国家に渦巻くサッカーの熱源を求めて」と、下記の目次にある通り、東欧サッカーの技術や戦術を分析を紹介するでのはなく、日本になじみの薄い、東欧の「小さな国々」のサッカーを支えるサポーター気質、国家や、スポンサー、はては、サッカー協会・スポンサーの裏表まで、現地に取材して紹介したものです。

2002年頃から、10年分の各国へのサッカーを軸にした、訪問記といったところでしょうか。

ベガサポにとっては、うれしいのは、選手とのインタビューで、ゴッツエ(2004年にベガルタ仙台にいた、マケドニア代表の主将で、クロアチアのディモナ・ザグレブから完全移籍してきたDF)の話が、一行出て来ることです。

また、東欧だけでなく、昨日、優勝候補の一角のアルゼンチンと1-1ドローと、初出場で、勝ち点を挙げた北欧アイスランドやフィンランドについても、少し前の時点の記事を載せています。メッシのPKを止めたアイスランドのGKは、映画監督だそうですが、そういうセミプロのような選手が多いようですね。

よくある、各国の新聞や雑誌の記事をなぞってまとめるだけはなく、みずからフリーガンとして有名なサポーター軍団に入って、往復1000kmを超える1泊5日をしたり、問題になったレジェンド選手に、直球質問をぶつけるなど、エトランゼのいい点を利用している、長束さんのしたたかさ。

それにしても、かなり各国の政治家の黒い点や、サッカー協会のドロドロまで、名指しで書いてるけど、消されないか?って思ってしまいます。

サポーターBBBの「火星で試合があるなら、火星でも行くぜ」とは、なかなかかっこいい。ただ、やりたい放題では、火星人のお仕置きがありそう。

ワールドカップや、CLに出るようなサッカー大国ではなく、地中海、バルト海を取り巻く各国にも、サポーターがおり、プロチームがあり、エストニアのように日本人選手が活躍している国がある、というのは、不思議な感慨を覚えます。

政治体制、人種、宗教が異なり、サッカーが単なる趣味ではなく、生活の一部になっているが故に、激しくぶつかり合い、観戦に武装警官が必ずいる、というのは、穏やかではありませんが、それでも尚、試合が行われ、当局もうまく折り合いながら見守っているというのも、また事実というか日常。

サッカーがもたらす、夢と日常からの解放、これは万国共通のようです。どの国もそこは認めている。
ただ、注意しなければいけないのは、そこに複雑な宗教、人種、体制がからんでくると、気を使わなければいけない事が多々ある、ということですね。俺がこう思うから、お前も同じ様に考えるはずだ、は通用しません。

同じルールでボールを蹴り合い、ネットを揺らすために、必死になる。それを応援する。結果に一喜一憂する。そこは同じ。サッカーに対する共通の感性もあるが、それ以上に、違う背景による、違った思いがあるという点は、この本を読むと強く感じます。

今、「いろんな国があるな~」と、ワールドカップを、のんびり平和に見られるのは、実にありがたい。そんな国が増えてほしいと切に思います。

尚、出版社から多数の誤植の発表があります。「膝蹴り」を「肘打ち」と間違うって、おいw


目次:
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