2019年韓国映画で、日本では今年の3月から公開された、『野球少女』(英題:Baseball Girl)を見てきました。
男子に混ざって20年振りに韓国高校野球に出場した、一人の女子選手が、様々な壁をコーチと共に超え、プロ野球を目指すという、実話を発展させたストーリー。
この作品は、野球映画でも、男女差別の理不尽を訴えるだけの映画でも、ありません。
すべてのアスリート、すべてのチャレンジャーに、エールを送るヒューマン・ドラマです。
以下ネタバレあり。
最近の邦画は、観客の志向に合わせて、劇的な展開や、硬軟とりまぜたストーリーにするが一般的。
韓流でも、ラブロマンスと思ったら殺人だったり、急にミステリーになったり、同様に、どこか現実離れた要素を入れて劇的な効果を狙ったものが多いようです。もちろん、それはそれで面白いのは確か。
しかし、この映画は、夢の実現を諦めない、今を生きる人の美しさと同時に、立ちはだかる現実の壁を、そのまま描きます。
ありがちなユーモアとか、ラブさえ抜きで、男、女というより、アスリートとして、人間として、壁に挑む生き様を、無駄なく、ストレートに押してくるので、ものすごく伝わってくるものがあります。
宣伝コピーでは、「天才野球少女」の話としていますが、あえてヒロインのチュ・スイン役に、華奢な感じのするイ・ジュヨン(「梨泰院クラス」=見てないヨw)をもってきて、まさに血の滲むような努力を重ねる、アスリートとして描き、市井の人が、夢に向かって突き進む様を強調しています。
もちろん、130kmの球を投げる投手、チュ・スインは、「女子の中では」傑出しています。しかし、プロ野球では、凡庸という並み以下。
しかも、一球も投げない内に、「女子」ということで門前払い。
超えられないフィジカル、選手としての短所があるなら、どうすればいいのか。差別の壁はどう打ち破るのか。
一見、この、男女差別の壁が、メインテーマのように見えるかもしれません。もちろん、その壁は厚く、母親にも「高校出たらどうするんだ」「諦めることは恥ではない」と、強く諭されます。
それでも、違うスポーツへの道を紹介されても、チュ・スインは絶対にあきらめません。
そして、最初は「力の差があり過ぎる」と反対していたが、彼女のがんばりを見て、個人指導を引き受けた、高校野球部のコーチの努力で、トライアウトまでは、こぎつけます。
トライアウトの前にコーチは、母親に聞かれます。
「トライアウトなどさせて、娘に可能性があるのでしょうか?希望を持たせて、結局、失望させるだけでは?」
コーチは言います。「可能性は低いです。」母親、絶句。
「男子だってプロになれるのは少ない。可能性は低い。」「けれども・・・・」
この後のセリフが秀逸。
どう言って、プロ入り目指すことに反対していた母親を、説得したのかは、作品を見てください。
また、リトルリーグから、チュ・スインと一緒のチームの男子で、高校でも同じ野球部の同級生、イ・ジョンホは、めでたくプロから指名を受けています。
チュ・スインがトライアウトに行けるとなった時、このイ・ジョンホは、チュ・スインに、あるプレゼントを渡します。
まあ、邦画的展開なら、ここでコクったりするのか?ヒロインもかわいいし、などど、下衆な思いで見ていると、まったく違いました。
男女を超えて、同じアスリートとしての言葉、プレゼント。エール。これは変化球。やられた。泣ける。
この他にも、強い意志と才能を持ち、努力も怠らないヒロインだけでなく、周囲の「普通の人」にも目配りした、脚本が素晴らしい。
母親が、ただ金のために、娘に野球を諦めさせて、仕事につかせようとしていのか?資格試験に落ち続けた一見「無能」、やさしいだけの父の唯一の長所は?
プロには及ばない凡庸な選手だったコーチの取柄というか才能。
「ふつうの人」だって、夢に向かえる何かがある、という事を、小さなエピソードを積み重ね、伝えてくれます。
無駄を省いた、シンプルなセリフの中に、人生を織り込んだ、脚本・監督のチェ・ユンテ監督も素晴らしい。
超能力も、タイムトラベルも無く、ありえない幸運が舞い込むわけでもない。現実直視の直球の内容ですが、夢を諦めず、努力を積み重ねる"アスリート"の様と、周囲の人達の心情の変化も良く描けてて、じわじわと感動を呼ぶ素晴らしい作品です。
是非見てください。元気が出る。超おすすめです。
と、ここまで推しておきながら、仙台ではわずか2週間で上映終了。おい!
しかし、動画配信などで、必ずや、じわじわ人気が出るものと思います。必見です。