絶対切れないザイル

なんですか、この夫婦は!NHKのドキュメンタリー「夫婦で挑んだ白夜の大岸壁」。

現実はドラマを越えている。

夫婦合わせて28本の指を、山で失いながら、また1300メートル垂直の岸壁をよじ登るんですよ!たしかに、山野井さん夫婦は、二人とも世界的なクライマーだったのでしょうが、指がなくて、なんで懸垂できるんだ!
あほや、何故、命がけで、また、そんなに山に登りたいんだ。世界一あほな夫婦や。

6年前のヒマラヤ・ギャチュンカン登山で雪崩に巻き込まれ、切れ掛かったザイルに奥さんが宙吊り。雪崩のショックで、目が一時的に見えなくなった山野井泰史さんは、厳寒の中で、手袋を取り、凍傷覚悟で、一本ずつ生指で、氷壁を探り、結局4時間もかけて、奥さんの妙子さんを救いました。この結果、二人は手足のほとんどの指を失いました。


それでも、二人とも、大人しくリタイアなんてしません。その後、自宅のフリークラミングの練習場で、懸垂で筋力を鍛え、道具を工夫し、北極圏・グリーンランド未踏峰の岸壁に夫婦で挑みます。それも、奥さんに最初に頂上を登らせるために。

もうひとりの51歳のベテラン・クライマーに、荷物などのサポートを頼むのですが、この方も、足の指を登山でなくしてる。そして、強くは見えていても、心の中にある、指を失った傷も理解してるひと。

カメラマンも、一緒に登って、落石をよけながらの撮影。垂直の1300メートルを2週間かけ、落下防止の道具を岩の割れ目にセットしながら、少しずつ登っていきます。ぼろぼろ岩が崩れるような岸壁です。
そして、山野井さんは42歳だけど、姉さん女房の妙子さんは51歳なんですぜ。先頭でルートを作る「トップ」は、交代交代ではありますが、それでわずかな手がかりしかない山肌をぐいぐい上がっていくんだから、どんだけ体力あるんだか。

確かに頂上からの氷河の眺めは素晴らしい。達成感もあるでしょう。でも、なぜ、そこまでして山を、岸壁を登りたがるのか。山野井さんにとっては、仕事でもあるわけであるが、それを超えている。

無酸素、単独登山ばかりしていた孤高のクライマー、山野井泰史さんが、この人とならザイルをつないでもいい、と思ったという、妙子さん。たしかに、「男前」でそれでいてチャーミングな方です。年齢不詳です。今では、指が無くても家事をさらりとこなしています。勿論、リハビリは大変だったと思います。そして今、だんなは、危険な登山ながら、「タエコ、タエコ」とうれしそうに呼びかけています。

価値観を心身共に共有し、夫婦愛だけでなく、同じクライマーとしての同志愛もあって、二人の絆は、「何故登るのか」という愚問を吹き飛ばします。



ヤマでザイルが切れた、指もたくさん切った。

それでも永久に切れない、「愛」というザイルを、二人は手に入れました。

もう、「Yes フォーリン・ラブ。」と言うしかないでしょう。

勝ってにしやがれ!