3つの課題

スローガンとは分かりやすく目標を述べるものだろうが、時として、うわべの字面に騙されて、本質を見失うことがある。「走るサッカー」なんて、当たり前で、「白い白衣」みたいな表現、それ自体には意味がない。実は、「どう」走るかが、問題なのだ。持久力を上げておくのは当然だが、サッカーは陸上のトラック競技ではない。いや、最近は陸上でも勝つために様々な駆け引きがされる。「どう」走るのか。ゲーム序盤でも終盤でも、トップ・スピードでチャンスをものにするには、体力を余裕を持って使う、状況判断能力が問われるのだ。もちろん、簡単に疲労困憊していては、思考能力は低下して、どう走るかもわからなくなる。

また、エラそうにと言われそうなので、断っておくが、以下の3つの課題は、現在フランス・リーグ1のル・マンで活躍している松井選手が、日本とかの地の違いについて聞かれてときに、答えたものを元にしている。
日本のサッカーとヨーロッパの違いというか、日本のサッカーに足りないもの、そして、それはベガルタにも不足していると思われるものである。すべて、当たり前で、言い尽くされたものばかり。しかし日本では、ベガルタでは、何年もその課題が克服できていないように思われる。それはスローガンに騙されて、本当の課題を見過ごしているからではないか。

1.フィジカル
「いやそんなことは分かってる、毎日ウエートやってます」じゃあ、何のために?
マッチョになった体をみて自惚れるためではないだろう。松井曰く、フランスのピッチは、ぬかるんで田圃状態が当たり前、そんな環境でも、バランス崩さず、トラップはぴたっと止り、キックも精度高く蹴れる。そして激しく当たり合う。バランスを崩しても持ちこたえる筋力、そして、ぶつかりあってボールを奪い、奪われても抜け出すパワーのために、フィジカルを鍛えるのではないか?
トレーニングルームで、いくらパワーアップしても、精度の高いボール扱いがなおざりになったり、ピッチの中で、必要な時の接触プレーを怖がっているのでは、意味がない。

2.1対1の強さ
1.とつながる話だが、フランスでは、とにかく、ひとりひとりの選手が、1対1に自信を持っている。練習の時から、同僚でも、ガンガン来る。「ピッチの外では、俺とお前は友達だ。でもガンガンいくぜ」と、激しく来るそうである。
味方なのに後ろから行って、大怪我をさせてはまずいが、練習で激しく行っていないものが、試合で激しく来る相手と対峙できるわけがない。つまり1対1の練習にしても、どれだけ試合を想定して、厳しくやっているかが重要なのである。
相手がひとりなら、絶対抜く、絶対ボールを奪う、どれだけ本気でそう思って練習しているかが問われる。
何かと和気藹々でありさえすれば評価するマスコミに、すっかり毒されてしまっている事が、進歩を妨げてる気がしてならない。

3.プロ意識
これも曖昧な言葉である。具体的にどういうことを指すのか。その中で、一番基本となるが、「プロだから練習するのは当たり前」ということだという。
なぜか日本では、「外国の選手は、練習を適当に楽しくやっているのでは」、という誤解があるが、実際は、単調な練習でも黙々とこなす選手ばかりだそうだ。なぜそんなに練習するのか、というと「プロだから。練習するのは当たり前だろ」と言われるという。松井に言わせると、むしろ、まじめに練習しているように見える日本の方が、どこかに「あまり練習しないのに巧い選手が、かっこいい」みたいな意識があるという。
そうだとすると、これは結構大きな問題だ。「まじめに練習しろ」ではなく、まず「意識を変える」ことをしないと身につかない。練習は、試合で結果を出すためだけでなく、それ自体がプロとしての仕事であると、心底理解できているのかどうか。

J1昇格のみならず、その上も狙おうと思っているのならば、「具体的に」課題と目的を見直し、各々が消化して貰いたいものである。