津田大介著「ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す」を読む

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津田大介著「ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す これからのソーシャルメディア航海術 (PHPビジネス新書)」を読みました。

ビジネス新書シリーズということで、かなりエグいタイトルがついていますが、内容とは必ずしも一致していません。

ネット・リテラシーやSNSの(技術ではなく方法論的)使い方、ビジネスへの応用と注意点など、ライター志望の方はもとより、企業の広報担当の方や、学校のインターネット利用教育(あるのかな?)を行うときの副読本などに向いていると思います。

本書は、津田氏のメールマガジンのQ&Aコーナーに加筆したもので、ツイッター、ブログを使う上での注意点や、既存マスコミとのつきあい方、情報の真偽をどうやって確かめるのかといった素朴な疑問、さらには、津田氏のように個人メディアを作って商売するにはどうすれば、などと、様々な疑問に分かりやすく答えられています。

しかし、ツイッターの第一人者だからといって、魔法のような答えがあるわけではなく、至って常識的な、リアルの世界で言われるのと同様の回答になっています。「信頼できる専門家に聞け」「人と会って見聞を広めろ」とか「本をたくさん読め」など。

過大なSNSへの期待が覚めてきて、ようやく本質が見えてきたというところでしょうか。例えば、ツイッターは、そもそもSNSではなく、「ニュース」である、という点。ここでのニュースには、個人的なものから社会的なものまで含まれますが、発言者がどういう人間であるかという情報「ニュース」が得られるに過ぎず、理解を深める助けになるものの、いわゆるコミュニケーションのためには、140字では限界がある。

そう思えば、フォローする・しない、ブロックなども、人間関係の構築そのものとは、違う次元で考えていいということでしょう。割り切っていいのです。コミュニケーションのとっかかりであって、そのものではない。


また、既存のマスコミとネット情報の関連の指摘も面白い。何かネット情報だけが、真実を流しているような極端な考えを持つ人もいるようですが、津田氏は「マスコミの発信する情報は95%は正しい」と言っています。根拠はわかりませんが、感覚としてそうなのでしょう。

ネット上で専門的な話が出てくる時でも、本当に真偽をネットの中だけで、確かめられるかというと、そうでないでしょうから、リアルに会ったり、取材に時間とお金をかける必要があります。

また、ネット上であろうとなかろうと、発言者は、必ず特定の立場でものを言ってるわけなので、そこも見極める必要もある。5%の作為もあるでしょうが、それでも、ほとんどの情報の元ネタがマスコミであるというのも事実でしょう。


さて、本書の一番の読みどころは、巻末にある、津田氏とドワンゴ会長でニコニコ動画産みの親の川上量生会長との対談と、宗教学者島田裕巳氏による「津田大介論」です。

二人とも、津田氏が、政治のメディアを構築しようとしているが、メディアになろうとするあまり、無色透明、立ち位置を鮮明しないのはどうか、と鋭く突っ込んでいます。

情報のキュレーターになろうとすれば、必ず情報の取捨選択あるいは編集という作業が出てくる。そこには、おのずと自分の考え方の反映が出てくるので、無色透明と言っても、かならず色が出る。その色は、どんな信念に基づくのかと、問われ続けるでしょう。

そうでないと、おためごかしのバランス取りや、あらゆる情報を全部出すことになって、キュレーションにならない。扱う題材が政治なら、尚のこと。いずれ、津田氏もそこを問われる日が来るのでは、と。

本書のメインコンテンツだけでは、メルマガの宣伝なんだろうと言われかねないので、この付録をつけたのかどうかは、分かりませんが、これがあるために、本書は、たいへん興味深いものになっています。

ちなみに、この「興味深い」というフレーズは、信用できない記事に良く使われる逃げの表現で、避けるべきものとして、津田氏が上げているものです。


【目次】
プロローグ ツイッターで「人」を見抜く
第1章 [動かす]メディアはどこへ行く
第2章 [受ける]情報のチューニング
第3章 [発する]アウトプットの論点
第4章 [伝える]発信者として突き抜ける
第5章 [魅せる]メディア・アクティビストになる方法
第6章 [働く]あらためて仕事とは何かを考える
付録1 特別対談 アルゴリズムに支配されないために 川上量生×津田大介
付録2 特別解説 津田大介論、あるいはパーソナルメディアの誕生 島田裕巳

Kindle版もあります。「ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す これからのソーシャルメディア航海術 (PHPビジネス新書)