15分間のカタルシス、朝ドラ「ゲゲゲの女房」

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今更NHKの朝ドラなんて、という人も多いと思います。

実際のこの「ゲゲゲの女房」が始まった時も、歴代の最低視聴率でのスタートだったそうです。確かに、昭和初期の田舎の頑固オヤジ、おとなしいヒロインの子供時代、力み気味の役者のセリフ使いに、「また同じか」と自分も思ってしまいました。

しかし、いよいよヒロインの「女房」大人時代になり、松下奈緒が登場、戦争で片腕を失いながら妖怪漫画を描いている水木しげる(向井理)に嫁いで、島根から上京し、世間が高度成長に向かおうとする昭和30年代、それとは関係なしに「貧乏神」に取り付かれたような、米びつの底が見えるような、夫婦生活を始めたあたりから、山田むつみの脚本が乗ってくるのです。

けなげとか、誠実とか、他人をも思いやる気持ちなど、もう死語になってしまったような場面が自然に描かれています。「人はパンのみにあらず」が、ちりばめられているのです。勿論、パンも必要なので、いろいろ知恵を絞って生き抜いていく。おどろおどろしいけれど、人のこころを捕らえる漫画を精魂込めて書く姿。そして厳しいクリエーター魂。全部今に通じる話です。

水木しげるさんの漫画


今は、非常に楽しみな15分間になっています。しかも、不覚にも涙する。こんな事は「おしん」以来です。

しかも、この作品はかわいそうだから泣けるのではないのです、いろんないい人達に支えられ、ひとつひとつ困難を乗り越えていく様、ファンタジーかもしれませんが、それがうれしいのです。「よかったね」と言ってしまうのです。

エピソードは多いけど、実はそんなに劇的ではないし、ヒロインはこれまでの朝ドラのように、セリフを絶叫したりせず、静かにつぶやき、苦しい時は歯をくいしばり、うれしい時だけ、おとうちゃんのためにはらはらと涙するのです。 それが逆に訴えてくる。


さて、苦難の昭和30年代に貧乏しながら漫画を書き続けた、水木夫妻がやっと報われる前半の山、感動の第16週は過ぎたけれど、今週は、テレビ黎明期に、初めて水木漫画が放映され、それをかつて食えずに漫画家を諦めた人や、自分の才能に夢破れたひと、苦難を共にしたひと、片腕の子供と、そこに嫁がせ行く末を心配していた田舎の家族たちが、涙ながらにテレビを見て喜ぶというシーンがあるようです。

昭和なセットのディテールも受けているようですが、事実7割、脚色3割といわれる脚本が、冴えてきています。次々出てくる癖ある人物が、水木しげるさんやふみえさんの器の大きさで、つながっていく様が楽しいのです。ドキュメンタリーではないので、真実を描くためのほどよい脚色があっても問題ないと思います。だいだい子役が超かわい過ぎますw

ここ数年の朝ドラで試みられた、視聴率挽回のための、ハチャメチャな演出が不評だった反動で、オーソドックスな形でもってきたのが、逆に古臭く、マンネリに感じられた序盤でした。
それが、調布時代になると、貧乏神との格闘、そしてそれからの脱却。今度は少し余裕のある中での、こころの問題が出てくるのでしょう。その間のユーモアとペーソスが実に利いていて、登場人物が生きています。

これは実際の水木夫妻の人柄のパワーもあるのでしょう。
是非、機会があれば、すでに放送済みの前半もあわせて見ると、楽しめると思います。現時点で、イチオシのドラマです。

ツイッターの方も、朝ゲ、昼ゲとかいって、放送時間中は特に盛り上がっているようですね。夕方にはBSでもやっているようですね。